大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所那覇支部 昭和45年(う)20号 判決 1974年5月13日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人春島美也富作成名義の控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、つぎのとおり判断する。

一控訴趣意第一点(法令の解釈適用の誤りの主張)について。

(1)  所論は、まず、関税法一〇九条一項の規定は憲法三八条一項に違反すると主張するが、関税法一〇九条一項は、関税定率法二一条一項に掲げるいわゆる輸入禁制品の輸入をした者を処罰する旨の規定で純然たる刑事犯的性質を有するものであり、したがつて通常の輸入貨物とは異なり何ら所持品の申告を義務づけているものではないから、所論は、その前提を欠き、憲法三八条一項との牴触の問題は生ぜず、論旨は理由がない。

(2)  所論は、さらに、麻薬取締法六四条一項の輸入罪と関税法一〇九条一項の罪とは法条競合または観念的競合にあたるのにこれを併合罪と解した原判決には法令の解釈適用の誤りがあると主張する。

よつて、案ずるに、麻薬取締法六四条一項の輸入は、本件のように空路による場合は、着陸してわが国内に麻薬を搬入したとき既遂となるのに対し、関税法上の輸入は、いわゆる通関線の突破によつて既遂に達するものであつて、両者は別個の行為であり、しかも関税法一〇九条一項は、わが国への輪入を禁止することが一般的に特に重要である貨物について貨物一般の輸出入の取締の任にあたる税関職員をして調査をさせて通関線でその輸入を現実に防止するとともに、このような税関職員の監視を潜り抜けて通関線を突破した行為をも処罰しようとするものであつて、立法趣旨が異なるから、右両罪は、併合罪の関係にあると解するのが相当である。原判決に所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

二控訴趣意第二点(量刑不当の主張)について。

論旨は、被告人を懲役三年六月に処した原判決の量刑過重を主張するものである。

よつて、本件記録を精査し、かつ、当審における事実取調の結果をも参酌して審案するに、本件事案の罪質、態様すなわち、被告人は、共犯者らと麻薬の密輸入を共謀し、タイ国から軍用機を利用して本件麻薬(いわゆるヘロイン)を密輸入したものであること、隠匿方法が巧妙であること、麻薬の数量等に徴すると、犯情には軽視を許されないものがあり、被告人の責任は重いといわなければならない。

所論が指摘し、証拠上も明らかな、被告人は平素まじめで有能な軍人であること、深く反省悔悟していると認められることのほか、被告人の身上、性行、経歴、現在の境遇等、被告人に有利な情状を斟酌してみても、同種事案および共犯者らとの量刑とも対比するとき、原判決の量刑はまことにやむを得ないところであつて、重きに過ぎ不当であるとは認めれらない。論旨は理由がない。

よつて、本件控訴は理由がないから、刑訴法三九六条により、これを棄却することとし、なお、当審の訴訟費用は、刑訴法一八一条一項但書に従い、被告人に負担させないこととして、主文のとおり判決する。

(屋宜正一 大城光代 堀籠幸男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例